ゲームモードの舞台裏:ソウル ブロウル

“修行編”の始まりです。

チームファイト タクティクスにおいて、プレイヤーの体力は最も重要なリソースです。「カースドのクラウン」でイチかバチかの賭けに出ようが、体力維持のためにリロールをし続けようが、最終的な勝負は体力で決まります。

しかし、それも過去のこと。「ソウル ブロウル」は違います。最新イベントのゲームモードである「ソウル ブロウル」は、TFTのコンセプトを根底から覆してしまいます。あなたは他の7人のプレイヤーとともに、トーナメントに参加することになるのです。

「ソウル ブロウル」は今年初めにリリースした「幸運の祝福」に続いて、イベントチームが開発したゲームモードの第2弾となります。この記事では「ソウル ブロウル」の詳細に加えて、開発チームが新たなイベントモードをどのように開発したのか、期間限定のモードについての考え方などをお伝えします。

レディ…ファイト!

「ソウル ブロウル」は8人のプレイヤーで戦うフリー・フォー・オールのゲームモードで、「トレーニングフェーズ」と「トーナメントフェーズ」の2つのパートに分かれています。トレーニングフェーズは少年漫画でいう"修行編"のようなもので、ゲームオーバーを気にせずにひたすら己を磨き、その後のトーナメントフェーズで他のプレイヤーたちと激しいバトルを繰り広げるのです。

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トレーニングフェーズ中は体力を失うことも、他のプレイヤーの体力を奪うこともありません。代わりにソウルパワーを獲得していきます。敗北した場合は獲得するソウルパワーの量が減り、勝利すればより多くのソウルパワーを獲得できます。

トレーニングフェーズ中は、アーマリーからアイテムを選択できる機会が計4回あります。アーマリーはソウルパワーの所持量に対応しており、その時点でのソウルパワーが多いほど選択肢が増加します。ただし、どれだけリードしていたとしても、欲しいものが必ず手に入るとは限らないのでご注意を。

そしてもちろん、修行には師匠が必要ですよね。「絶対にソウルファイタースキンを使うべきだ、と開発当初からメンバー同士で話していました。ここで登場させないなんてありえないですからね」とゲームデザイナーのMichael “AfternoonTyphoon” Scipioneは言います。

トレーニングフェーズ中のPvEラウンドでは、クルーグやマークウルフと戦う代わりに、セトかグウェンが師匠としてスパーリングをしてくれます。目的はこの二人を倒すことではなく、降参させることです。

また、このモード独自の要素として、各プレイヤーは最初の対人戦に挑む前に「ソウルの王冠」というアイテムを受け取ります。「ソウルの王冠」をユニットに使用するとステータスが増加して、リストの最後に記載された特性(特定のチャンピオン専用の特性を除く)のカウント数が1つ増加します。残念ながら、このモードではコスト5ユニットの固有特性で悪ふざけすることはできなくなっています。

「ソウルの王冠」はあなたと一緒にトレーニングフェーズで修行を積み、トーナメントフェーズが始まると究極形態に変化しします。完成形になるとステータスボーナスが増加するとともに、「ソウルの王冠」を装備したユニットは戦闘で最初に倒された際に復活できるようになります。その際、復活時の体力はプレイヤーの獲得したソウルパワーの2倍となります。

トーナメントフェーズに入ると、いよいよ真の戦いが始まります。このモードでは体力が存在せず、トレーニングモードで敗退することはないので、トーナメントフェーズには全プレイヤーが参加することになります。トーナメントフェーズはBO3形式になっており、一度敗北しても必ず再戦するチャンスがあります。

「通常のTFTでは、同じプレイヤーと2回連続で戦うすることがないように決められています。しかしソウル ブロウルでは、同じプレイヤーと必ず連続で戦うことになります」TFTのプロダクト・リードであるTravis “Riot Dovagedys” Boeseは語ります。「時間は限られていますが、悔しい敗北から逆転を狙うべく、パズルを解くように編成を組み替えることができるんです」

激闘のBO3を終えると、その時点で敗者はトーナメントから敗退し、勝者は次のラウンドへ進出します。ファイターたちにチョンクの加護があらんことを。

期間限定であることの強み

ここからは開発初期の話をしていきましょう。開発チームが新たなイベントモードのアイデアを考え始めていた頃の話です。「幸運の祝福」を終えた開発チームは、次のモードはチョ=ガス並みに規模を拡大する必要があると考えていました。

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「当時、大多数のプレイヤーが、『幸運の祝福』をプレイしていました。リリース直後の2日間だけ…ということもなく、1か月間コンスタントに続いたんです。多くのプレイヤーが『幸運の祝福』だけプレイするか、あるいは通常のモードもプレイするけど『幸運の祝福』も頻繁にプレイしてくれているという状態でした」とAfternoonTyphoonは言います。

「幸運の祝福」の成功によって、プレイヤーはTFTに新たなゲーム体験を求めていることが明確になりました。こうしてイベントチームは、独自のイベントモードをさらに開発すべく全力疾走していくことになります。

これらのモードは当初から期間限定となることが想定されており、その期間中に最高に楽しめるようデザインされています。「幸運の祝福」は「月の祭典」イベントの、「ソウル ブロウル」は「ソウルファイター」イベントの期間中です。

イベントとモードの内容はどちらが先に決まるのかと言うと、「幸運の祝福」も「ソウル ブロウル」も、イベントのテーマがゲームプレイのインスピレーションとなっています。「幸運の祝福」は旧正月らしいお祭りムードを楽しむゲームモードで、アイテムとゴールドがノンストップで登場します。バランスが取れていたかと言えば…必ずしもそうとは言えないかもしれません。ですが、楽しかったのは間違いありません。

「ソウル ブロウル」では、「ソウルファイター」のテーマがモード開発に大きな弾みを付けてくれました。ただし、TFTは格闘ゲームにはほど遠い存在です(と言っても、私と長い時間対戦している場合は別です。私は口よりも手が出てしまう方なので…手を出すと言っても注意ピンのことですが)。そこでTFTの独自性は維持しつつ、他タイトルでプレイできる「ソウルファイター」のゲームモードとは異なるゲーム内容を用いて、「ソウルファイター」のテーマを組み込む方法について考えました。

今回は期間限定のモードであり、イベントをベースにしたデザインが可能だったので、通常のTFTではできないことを試すチャンスでもありました。

このチャンスを活かすべく、開発チームは新たな勝利条件の導入に挑戦しました。「ソウル ブロウル」では、体力をベースに最後まで生き残ったプレイヤーが1位になるのではなく、トーナメント表を設け、最後まで勝ち進んだプレイヤーが1位になるのです。

「これは『ソウル ブロウル』ならではの要素であり、通常のTFTでは不可能だったことです。『ギズモ&ガジェットから体力要素を削除したよ』と言って新セットを出すわけにはいきませんからね。ゲームを根本から変えることになるので、新セットとしてリリースするにはリスクが大きすぎます」AfternoonTyphoonは語ります。「しかし、期間限定モードなら実験してみることが可能です」

開発チームは最初に3つの大きな目標を設定しました──ひとつは「ソウルファイター」のテーマを導入することと、ひとつは通常とは異なる勝利条件を作り出すこと、そしてもうひとつはあらゆるスキルレベルのプレイヤーにとって魅力的で、繰り返し楽しめる体験を作り出すことです。

しっかりと目標を立てたとはいえ、新たなゲームモードのデザインを始めるにあたっては、やはり複雑なプロセスを辿ることになります。

「ソウル ブロウル」を形にする

ゲームモードのデザインを始めてまもなくのことです。システムデザインリードのJake “Riot Lucky Seat” Streetは、色々な部門からたくさんメンバーを集めてブレインストーミングすることが鍵だろうと考えました。ライアットの基本理念のひとつに、「良いアイデアはどこから出てくるかわからない」というものがあります。

「開発の初期段階では、多くの人の意見を集めることがとにかく重要です。いいアイデアを思いついても、それを誰にも話さず仕舞い込んでしまう事態は往々にして起こり得ます。ですが、アイデアを共有できさえすれば別の視点からの意見が得られ、『○○についてはどう思う?××とか△△はどうかな?』とアイデアを膨らませていくことができるんです」とRiot Lucky Seatは言います。

構想の段階では、作業はすべて紙の上で行われました。実機で動くプロトタイプを制作するとコストがかかるので、初期のデザイン過程ではデザインドキュメントを使い、ブレインストーミングで奇想天外なアイデアを出し合って、ゲーム内でどのように見えるかを描いていきます。このときはゲームモード専用のUIやメタゲームの調整だけでなく、ちびチャンピオンやソウルファイタースキンといった周辺要素をどのような形で登場させるかまで、あらゆる事柄を検討しました。

膨大なデザインドキュメントが用意できた(具体的には英単語6,281個分になりました)ので、そこに書かれたアイデアから、エキサイティングかつ技術的に達成可能なものに絞り込んでいきました。トレーニングフェーズとトーナメントフェーズのことや、ソウルパワー、ソウルの王冠といったデザインの核はこの段階で確定したものです。

「それからUXチームが魔法のような手際でモックアップを作ってくれて、私たちのアイデアがゲーム内でどう形になるのかを見せてくれました」Riot Lucky Seatは語ります。「その後はそのモックアップをじっと検分し、実際にプレイするとどうなるのかや、発生し得る問題や実装の難易度などを考慮したうえで、最終的に試作品の開発に取りかかりました」

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UXデザイナーのMorgan “MogeCoin” Romeroはトーナメント構造をどのよう表示するべきかを検討し、試行錯誤の結果、あらゆる情報をひとつのオーバーレイにまとめることを決めました。

しかし、試作品が完成して、プレイテストと改善を繰り返す長い作業過程が始まったとき、それが面白くなったかどうかは、どうすれば判断できるのでしょうか?ゲームデザイナーとしてそれを判断するには、“おもしろい”よりも具体的な指標が必要となります。

「私がStarCraft 2の開発に携わっていたとき、バランスデザインチームのリーダーに『ユニットのアイデアを提案するときは、“楽しい”とか“おもしろい”という言葉を使わずに説明してくれ。“楽しい”とか“おもしろい”は人によって意味が変わってしまう言葉だから』と言われたことがあるんです」とAfternoonTyphoonは思い返します。

確かに“楽しい”では概念の幅が広すぎるので、今回もプレイテスターに意見を聞く際は「最もエキサイティングだった瞬間は?」とか、「トーナメントフェーズについてはどう思いますか?」とか「ソウルの王冠の仕組みは理解できましたか?」という風に質問しました。また、当初立てた目標を意識して「このモードは通常のTFTと比べてどれくらい違うと感じましたか?」という質問も行いました。こうしたフィードバックプロセスを経て、開発チームは目標とするモードになるよう試行錯誤を繰り返して行ったのです。

「デザイン作業の最中、特に今回みたいに大規模なコンテンツのデザインを行うときは、つい目標の重要性を忘れてしまいがちです」Riot Lucky Seatは語ります。「これがもし新セットの制作であれば、チャンピオンに毎日修正を加えることが可能です。しかし『ソウル ブロウル』では、それほど素早く修正を適用することができないので、このモードのあるべき形を最初からしっかり固めておくことが重要でした。そしてこのとき、“あるべきではない”形を把握しておくことも同じくらい重要です」

「どんなプレイヤーにとっても魅力的なモードを作ろうとすると、すべてがぐちゃぐちゃなものができてしまいます」

プレイテストを通して、開発チームは大量のフィードバックを受け取り、数々のバグに対処し、継続的にモードの改善を行いました。

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小数点の位置がひとつズレただけで、信じられないほどムキムキのカイ=サが誕生します。別の事例では、特定のオーグメントを選択するとプレイテスターが一瞬で倒されてしまったこともありました。笑うしかありませんね(笑えない)

今後の期間限定モード

突き詰めて考えると、TFTの期間限定モードを作り上げる意義は「これまでにない予想外のプレイ方法を提供すること」にあります。

「ランク戦を延々とプレイしているだけでは、多くのプレイヤーはいずれ疲れてしまいます。だからこそ、私たちはTFTに新たな楽しいプレイ方法を導入したいと考えているんです」Riot Dovagedysは語ります。「ひとつのセットが続く4ヶ月の間、TFTのおもしろさや新鮮味を維持し続ける…期間限定モードはその大きな計画の一環なんです」

期間限定モードで登場した要素がすべて通常のTFTに実装されるわけではありませんが、「幸運の祝福」で登場した「小型チャンピオン複製器」のように、ボツにするにはもったいない良いアイデアを思いつく場合もあります。いずれにしても、期間限定モードが開発チームにとって新しいことを試し、プレイヤーの皆さんが楽しめるものはどんなものなのかを探る格好の場であることは確かです。

将来のイベントモードについては、まったく新しいゲームモードを制作するか、あるいはある程度既存のゲームモードを踏襲したものを制作するか、どちらの可能性も検討しています。どちらを選んだとしても、それはプレイヤーに楽しんでもらえるものを発見し、学んでいくための終わりなき道となります。

「すべてのモードが『幸運の祝福』のように上手くいくとは思っていません」Riot Lucky Seatは語ります。「それでも、私たちはこれからもプレイヤーに気に入ってもらえるものが何なのかを試行錯誤していきます。期間限定モードのあるべき姿や、TFTを楽しむうえでの立ち位置についても、もっともっと理解を深めていきたいと考えています」

ゲームデザインに関して言うと、期間限定モードは予想外のアイデアをもってプレイヤーに叩きつける挑戦状でもあります。結局のところ、それがこの開発チームのDNAなのです。振り返ってみれば、TFT自体が突拍子もない考えから始まって、最終的にひとつのゲームになったものでした。

「期間限定モードに関しては、印象に残らないものを作るよりは、欠点があっても記憶に残るものを作った方がいいと考えています」とAfternoonTyphoonは言います。

「ゲームデザイナーはプレイヤーに挑戦することをつい恐れてしまいますが、本当に恐れるべきはプレイヤーを退屈させてしまうことです」Riot Lucky Seatは付け加えて言います。「私たちはこれからも、皆さんに挑戦していきます」