宴に命を吹き込むということ

「宿命:獣たちの宴」の新アリーナ開発秘話をお届けします

作者Audrey “spookzook” Miano
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戦術師の皆さん、こんにちは!今回はTFTチームから、「宿命:獣たちの宴」のアリーナ開発秘話をお届けしたいと思います。セット4.5向けに制作した2つのアリーナは、コンセプト立案から実制作に至るすべての工程でTFTアリーナの可能性を押し拡げる試みでした。しかし当然ながら野心的なプロジェクトには、それに見合った困難が立ちふさがるもの。本プロジェクトでもエンバイロメント(背景、環境)アーティスト、コンポーザー(作曲家)、VFXアーティストたちは様々な難題に直面することとなりました。そうして完成したアリーナがTFTのゲーム体験の新たな可能性を拓くものになっていれば幸いです。それでは以下、開発秘話をお楽しみください!

まずはGinoが4.5アリーナのコンセプトを紹介します。

コンセプトデザイン

4.5の開発に着手する時点で、チームはプレイヤーの皆さんと春節(日本でいう旧正月)を祝えるものにしようと考えていました。しかし、そのためには楽しい体験を作るのは当然のこと、祝賀行事としての伝統的側面も大事にする必要があります。春節は過去にも何度か扱ってきたテーマではありましたが、「いつだって過去を超えていく」姿勢をなくしたらTFTらしくありませんからね!そこで私たちはまず、元々作っていた玉座の間アリーナと川沿いの村アリーナのコンセプトをベースに、アイデアをモリモリと盛っていきました。こうして玉座の間は中国テーマのクラブ(素敵な専属DJ付き)、川沿いの村はホログラム投影を備えた屋上パレード会場へと変貌を遂げ…チーム一同は大いに盛り上がり、この方向性で行くことを決断しました。

そして直面した難題は、TFTのゲームプレイに求められる条件をすべて満たした上でアイデアすべてを実現することでした。クラブにしても屋上パレードにしても、PC・モバイルの両方で雰囲気がしっかりと伝わるものにしなくてはなりません。つまりすべてのビジュアル要素が、両方のプラットフォームで、明瞭かつ躍動感にあふれたものとして表現された上で、アイテムなどのゲームプレイ要素の邪魔をしないデザインにする必要があったわけです。

また一方では、春節にまつわる文化的・伝統的な美術要素や記号の扱いに細心の注意を払う必要がありました。しかしTFTチーム最大の強みはコミュニケーションとコラボレーションにあります。今回のプロジェクトでは春節の行事に馴染みのある同僚がたくさん「文化コンサルタント」として協力し、春節を祝うプレイヤーの心に響く要素について貴重なフィードバックを提供してくれました。フィードバックに合わせて作り直すプロセスを何度も実施したのに快く協力してくれた皆、そしてそれを美しいアートに仕上げてくれたエンバイロメント/VFX/SFXアーティスト、アニメーター各位にこの場を借りて心からの感謝を。彼らのおかげで全世界リリースが待ち遠しいアリーナが2つ完成したのですから!

改めて、セット4.5のためにチーム一同が用意したアリーナを皆さんが気に入ってくれることを心から願っています。では続いて、エンバイロメントアーティストのJeremyの振り返りをどうぞ!

エンバイロメントアート

ありがとうGino!今回のプロジェクトでも、僕たちエンバイロメントアーティストはコンセプトチームから受け取った美麗なアートをスタート地点として開発を進めていったのですが、最初に直面した課題はその美麗なアートたちを「3D空間として再構築する」ところでした。特に「クラブ2」はTFT初の屋内アリーナだったので制作も普段とは少し異なります。これまではスカイボックスと遠景でうまく視差を作り出せていましたが、屋内環境は初めてだったのです。最終的には大きな窓を配置することで遠くに広がる市街を示し、さらに祝いの花火を重ねて視差を表現しています。またクラブ2では、コンサートステージを用意してDJ OXを招き、春節の華やかさをより色濃いものとしました。この他にもアリーナをTFTらしい愉快な雰囲気で彩るため、食事の載ったテーブルやディスコボール、コンフェティキャノンなど普段よりも人間っぽい要素も加えています。

もうひとつの「ルナーシティ」アリーナでは、伝統的都市のビル屋上に未来的なビジュアルを作ることを目指しました。特に屋上周辺にはホログラムを発出する浮遊ボートを配置することになっていたので、テクニカルアート部門と連携して水シェーダーを作成、シンプルなテクスチャ数枚で反射を表現しています。

そして実は…今回のアリーナにはTFTで初めて「前景」要素が導入されています。「クラブ2」向けにはダンスフロアを見下ろすようなバルコニー、「ルナーシティ」には未来的東洋テイストの塔をそれぞれ作成してあるんです。

僕からは以上です。次はVFXのIsaac、よろしく!

VFX

Jeremy、ありがとう!VFXの面では「宿命」セットの「カンメイ」、「アカナ」、「精霊の花祭り」の各アリーナでプレイヤーの操作やゲームの状況に反応する要素を新たに追加するというチャレンジをしていたのですが、ミッドセットではさらに一歩踏み込み、クリック時により大きなエフェクトが出るようなものをグッと増やしています。また、そういうインタラクティブ要素がアリーナに欠かせない要素だと感じてもらえるように特に注力しました。その結果として…僕たちは技術的に全く新しい手法に挑戦することとなりました。その成果は「クラブ2」のDJ OXやホログラムに採用されているのですが、中でもホログラムの実装は過去トップクラスに大変でした。本物のホログラムのように感じられる表現を実現した上で、そのホログラムがゲームの流れに合わせて一緒に盛り上がるわけですから。ホログラムのフリップブック(パラパラマンガ)表現をあの完成度まで持っていくには、コンセプトアーティストとの綿密な連携が欠かせませんでした。その上で複数のテクスチャを重ね(アルファを持つテクスチャを別のテクスチャに重ね、それをデフューズテクスチャに重ねる)、フリップブック画像の加算バージョン複数個をジッタリングさせ、ようやく目指す表現が実現できたのです。

さて続いては、ミュージック部分を担当したJasonです!

ミュージック

ありがとう、Isaac!新アリーナ用に楽曲を制作すると決まった時に最初に浮かんだ疑問は、みんなの耳に残っている既存の楽曲と新曲をどう組み合わせるのか?ということでした。通常のTFTで流れる楽曲は6トラック構成で、遷移は4種、さらにゲームプレイ序盤の進展を知らせるための固有メロディーが少数用意されています。そこでまず僕とサウンドデザイナーAlison Hoの2人がタッグを組み、TFTミュ―ジックシステムの構造を整理、アリーナ単位でトラックを差し替えられるように作り変えました。

また「クラブ2」の楽曲制作では、「ルナーフェスティバル」テーマ曲の核となる部分を残しつつも、TFTらしいスタイルを確立させねばなりませんでした。この曲には2019年のルナーフェスティバルキャンペーンで使用した楽曲のメロディーをいくつか使用し、テーマを気に入ってくれていた人が親しみを感じられるようにしています。この部分は中国の伝統楽器を使うことでルナーフェスティバルのメロディーだと気づいてもらえるように配慮した上で、ナイトクラブにふさわしい現代的EDMの響きが出るよう加工を重ねました。さらに楽曲はドラフトラウンド(通称「回転寿司」)を含むTFTの全アリーナと馴染むようにする必要もあったので、楽曲の遷移が自然になるようにイ短調を採用しました。

今回はこのほかにも、長い間TFTを遊んできてくれた方向けに楽しく特別な要素も用意しています。過去に実施したTFTキャンペーンで、クラブ2のテーマに似たエレクトロニックミュージック…と考え、「アレ」をゲームプレイ中に流すのも面白いのではないかと。そこであの曲の「ドゥドゥドゥンガ」パートを入手し、アリーナのラウンド勝利時ボーカルとして追加しました。

[Teamfight Tactics | Fates - Club 2 Arena Theme]
[Lunar Revel 2019 - Login Theme (Excerpt)]
[Win Streak Music]
[Win Music]

それでは本稿の締め、SFXのすべてを語ってくれるAlisonにバトンタッチです。

SFX

ありがとうJason!「クラブ2」と「ルナーシティ」向けSFX制作では、幸運なことに着手時点で両アリーナの方向性を明確に示す多数のコンセプトアートとムードボードが揃っていました。その後チームのアートディレクターであるMarcusとも話をしてみると、互いに春節という伝統的イベントの持つ祝賀的な雰囲気を「ルナーフェスティバル」テーマの未来的な印象で彩るという同じ方向を向いていることが確認できました。

今回はその目標の実現するため、従来よりも多くの伝統的中国楽器(二胡、古筝、銅鑼)を使いつつ、そこに近代的な要素(ホログラムのデジタル効果やエアホーン)や群衆のサウンドをミックスしています。なお、「クラブ2」の場合はミュージックを中心にサウンドを組み立てていますが、「ルナーシティ」では環境音を中心にして構築する必要がありました。

しかし「クラブ2」がミュージック重視のアリーナだとはいえ、コンポーザーのJasonと私はクラブミュージックが全開で鳴り響いていない状態でもアリーナにいる感覚を残したいと考えていました。このためプレイヤーがクライアント側でミュージックをミュートした場合でも、楽曲は音量をぐっと抑えた上で環境音のように鳴り続け、「パーティー」が続いていることを感じられるようにしてあります。

[Ambience with music on]
[Ambience with music muted]

また、あわせてラウンド勝利/敗北時の効果音も作成し、プレイヤーがミュージックをミュートしている状態でも「ミュージックが輝く瞬間」が生まれるようにしました。どんな状態で効果音が再生されても他の音とズレないよう徹底的にタイミングを調整し、ラウンド終了時に再生されるSFXがどんな状態であっても直前に聞いていた音とつながるようにしたわけです。

[Stinger with music on]
[Stinger with music off]

そしてJasonと同様、私たちもこのアリーナには「ドゥドゥドゥンガ」が絶対に欠かせない!と感じていました。そこでサウンドデザイン側でも対象ボーカル部分にさまざまな加工・ピッチ変更・反転などを施す「リミックス」作業を執念深く重ね、最終的に採用しています。このSFXは連勝中に再生されるほか、ラウンド敗北時にも寂しげなバージョンが鳴るようになっているので聞いてみてくださいね。

[Dududunga Processing]
[Dududunga Winstreak and Loss]

サウンドデザインしがいがあるという点においては、DJ Oxもたいへん個性的で楽しいものでした。DJ Oxはミュージックに合わせて即興的に動くだけでなくラウンドの勝敗にも反応するので、本物の雄牛/雌牛のサウンドを引っ張ってきてDJ Ox風アレンジを施しています。

[DJ Ox Sounds]

そして最後に「ルナーシティ」アリーナ。上述したとおり、このアリーナの目標は「伝統的祝賀ムードに未来感を重ねる」ことでした。ここでは未来的テクノロジー要素を足すため、ホログラム発出ボートやホログラム看板に加えて空飛ぶ車の行き交う様子を背景に追加しています。

[Lunar City Traffic]
[Signs]
[Lunar City ambience in-game]

一方で、ラウンドの勝敗に対する反応は群衆やパレードのサウンドを中心に表現するようになっています。ここでは毎ラウンド、すべての要素が重なり合って春節の祝賀ムードを示すことを目指しました。

[Erhu, gong, drums]
[Lunar City win round]
[Lunar City lose round]

これにてTFTの新アリーナのスクープはおしまいです!「宿命:獣たちの宴」の開発舞台裏をご覧いただき、そして私たちと共に春節を祝ってくださり、ありがとうございました。皆さんがセット4.5を気に入ってくれることを心から願っています。なお「宿命:獣たちの宴」の詳細が気になる方は、シーズン開幕動画のチェックもお忘れなく!



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