/Dev TFT:ゲームアナリシスチーム(GAT)

新チーム「GAT」について紹介するとともに、セットデザインとバランス調整における彼らの役割についてまとめました。

ハイペースで進化を続けるTFTの世界では、GAT(ゲームアナリシスチーム)として知られる英雄グループが、舞台裏で非常に重要な役割を果たしています。セットのリリース前からセット最後のパッチにいたるまで、TFTにおいて最適なゲームプレイ体験を確立することにより、ライブバランスとセットデザインに貢献する──それこそが彼らの使命です。


要約:

  • GATは、元アナリスト、元コーチ、元プロなど、全員がマスター以上のランクを維持しているTFTプレイヤーで構成された(比較的)新しいチームです。
  • GATはセット開発の初期段階(セットのプレイテストが可能になるよりも前の超初期段階)のデザイン検証を担当しています。
  • GATはセットリリース初日からポジティブな体験を保証するため、シミュレーション、データ分析、プレイテストを行っています。ですが、彼らの仕事はセットのリリース後も続きます。GATのメンバーは自身の経験と分析を基に、さらなるコンテキストを提供することで、ライブバランスの調整にも貢献しています。
  • GATは「ルーンテラ リフォージ」、そして「グリッチド アウト!」の開発にも携わっていましたが、このチームと完全一体となって行われるセット開発は、今まさに進行中の10番目のセットが初となります。

GATメンバー紹介

GATは多方面から才能ある個人を集めた集団で、それぞれがユニークなバックグラウンドと専門知識を持っています。ただバックグラウンドは違えど、チームメンバーにはとある共通要素が存在します。それはTFTのスキルです。GATのメンバー(GATterとでも呼びましょうか)は皆、マスターからチャレンジャーに属しています。これらのランクティアはセットの時期にもよりますが、プレイヤー全体の上位0.5%から2%にあたります。そんな高ランクに属するGATterですが、彼らの活躍は“世界トップクラスのTFTプレイヤー”という枠だけでは収まりきりません。それでは、GATterを一人ずつご紹介していきましょう。

Inikoはこのチームでは一番新しいメンバーです。彼はTFTの元プロプレイヤーで、誰もが憧れるランキング1位を複数回達成しています。Inikoの持つ貴重なゲーム知識と、プロプレイヤーならではの洞察は、チームにとって大きな戦力です。

VictorはVALORANTのGATから、新設されたTFTチームへとやってきました。彼はそれぞれのゲームでレディアントとチャレンジャーに到達しており、以前にはハースストーンでレジェンドランク1に到達したこともあります。Victorは様々なゲームをプレイし、異なる観点から得た経験を活かして、TFTをどんな人にとっても遊びやすく、おもしろいゲームにすべく尽力してくれています。

BrianはワイルドリフトのGATからこのチームに加わりました。ワイルドリフトでランキング1位に到達したことがあり、今はTFTという舞台で新たなチャレンジに挑んでいます。Brianはこれまでに得た品質保証に関する専門知識と経験を、彼が今最も入れ込んでいるゲームにもたらしてくれています(ちなみに、木の剣を持ったペンギンが登場するゲームです)。

最後はDavid Lim。記事の残り部分は彼が担当してくれます──ありがとう、David。Davidは元々、LEC(LOL European Championship)とLCS(League Championship Series)の両方で、Team Liquid、Clutch Gaming、XL Esports、FlyQuestといった団体のコーチングを通じてゲーム業界に関わるようになりました。最終的に彼がGATに加わることになったのは、チームがLoLに注力していた頃でした。ですがTFTがリリースされると、彼はこのゲームに対する情熱を強めていきました。そして、Dave Parkと共にTFTのGATを率いる話が持ち上がったとき、彼は喜んでその役目を引き受けました。それでは、ここからはDavidに交代してGATの日常について語ってもらいましょう。


セット開発におけるGATの役目

セットのプレイテストが可能になる以前、GATはデザインの検証作業を担当します。この段階において、チームはユニット、特性、オーグメントなどに関する恒常的なセット基準と新コンテンツとの比較を行います。検証する項目は多岐にわたりますが、エンジニアが紙上のデザインをプレイテスト可能な環境に起こす前に、チームは大まかに分けて以下のような要素をチェックする必要があります。

  1. 満足感が高く、おもしろく、目立った戦闘であること
  2. 直感的で理解しやすい戦闘であること
  3. 各特性の発動人数が到達可能になっていること
  4. 大規模特性と、それを補助する小規模特性の両方が存在すること
  5. 戦闘に勝利するうえで偵察は必要だが、戦闘が偵察に依存しきってはいないこと

全般的な戦闘と特性の構成をチェックし終えたら、次はより狭い範囲に焦点を当てていきます。チームは初期段階における各ユニットと特性にフォーカスし、ゲームの枠組み内で十分に満足感と一貫性が保たれているか、念入りに検証を行います。このプロセスにおいて非常に重要となるのが、各キャリーユニットにゲーム内で実現可能なビルドの道筋、つまり“キャリーへの道”を確実に用意することです。ここでは、コスト4キャリーのアフェリオスを例に、どんな構成/ユニットが彼と組み合わせるのに適しているか分析してみましょう。アフェリオスをキャリーに据えた場合、フレヨルド3、デッドアイ4という現在人気の構成が実現可能になります。

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しかし、“キャリーへの道”はユニット整理作業の一環に過ぎません。セット初期段階でGATが携わるもう1つの共同作業は、“デザインの意図を各ユニットの特徴に合わせる”というものです。具体的にはまず、各ユニットの理想的プレイやロールがどうあって欲しいか、デザイナーに確認します。そして、それらの理想的プレイ/ロールを“一貫性とおもしろさを兼ね備えたセットの実用的ピース”として順応させるべく、プレイテストやシミュレーション(詳しくは後ほどお話しします)、紙上のデザインを重ねていきます。ここで考えるべきは、各ユニットが狙いとなる役割をどう果たすべきか、ということです。セジュアニであれば、自動効果で与えるダメージよりも、耐久力と補助性能を基に判断していきます(ちなみに、この自動効果が理由で、コスト3ではなくコスト4のタンクになりました)。

デザインの段階において、GATはオーグメントにも同様の対応を行います。アンバランスな状況を生み出す可能性のある最適なコンボに対して、理論構築とシミュレーションを行い、多くの時間をかけて徹底的にオーグメントの検証を行います(高いシナジーを持つ優れたオーグメントの組み合わせは必ず存在するものですが、そのシナジーが他の組み合わせの成功を阻むような事態は絶対に避けたいのです)。また、私たちはオーグメントの多様性の確保にも努めています。オーグメントには、柔軟性の高いもの(限られた構成で有効なものもあれば、より一般的なものもあるべきです)と腕前を求められるもの(「乱れる思考」や「即決」は高い腕前が必要なオーグメントの良い例で、これらは「ステータスマシマシ」や「アセンション」といった、より使いやすいオーグメントでバランスを取る必要があります)の両方があるべきです。

オーグメントはTFTにおける複雑なパワーソースです。オーグメントを利用することで、(ヴォイド8やピルトーヴァー6のような)強力な特性発動人数への到達、通常と異なる構成ビルド(「特別製」、「ダブルトラブル」)、過去のTFTセットで学んできたルールの破壊(「地獄の契約」、「犠牲的協約」、「ヘッジファンド」)が可能になります。これらの複雑なパワーソースを考慮しつつ、GATは各オーグメント、特に制御が難しいオーグメントに適切なバランスレバーを用意できるよう取り組んでいます。これについて、「特性の書」とゴールドを付与するオーグメント「古の記録」を例に見ていきましょう。紋章から得られる恩恵が平均より弱くなりすぎた場合、プレイヤーの獲得ゴールドを増やすことで、いつでも対応することが可能です──このオーグメントが強くなりすぎた場合は、それと反対のことをすれば良いのです。そして、特定のオーグメントの組み合わせを禁止リストにまとめるのもGATの仕事です。例えば、ステージ2-1で「ヘッジファンド」を獲得した場合、ステージ3-2では「富が富を呼ぶ+」が提示されないようにするのです。「ルーンテラ リフォージ」では、特定のポータルにおいて一部のオーグメントが出ないようにする必要がありました──タクティシャンの体力が40に低下すると戦利品を付与してくれるターゴンポータルで、他のプレイヤーに「犠牲的協約」は持たせたくありませんよね?

先ほど少し触れたように、私たちはセットの開発段階に関係なく、数多くのシミュレーションを行います。シミュレーションでは、理想的な(または理想に近い)チーム構成同士を戦わせます。包括的なシミュレーションを促進するため、私たちはボードストリング──前もって整えた試合後半の盤面(チームが制作した、そのセットにおける中盤から終盤の特徴的な構成の見本)を活用します。「ルーンテラ リフォージ」においては、より効果的に各構成をシミュレートできるよう、起こり得る82の終盤戦の盤面をストリングとして作成しました。これら82個の部隊を活用すれば、PBEでのセットリリース前から、よりデータに基づいたバランスやデザインに関する判断を行うことができます。また、これらのストリングを調整することで、特定の構成要素(オーグメント対オーグメント、ユニット対ユニット、アイテム対アイテム)を抜き出し、強さを比較することも可能です。様々な構成のテスト、また単にデータ分析やプレイテストをするよりも正確なパワーレベルの測定が可能となるシミュレーションは、私たちの仕事において中心的役割を果たしています。これは、“私たちがゲームプレイ時間のほとんどを、シミュレーション環境における自分たちだけでの対戦に費やしている”ということでもあります。ですが成果は十分に出ていますので、孤独と戦うだけの価値は絶対にあるはずです!

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とはいえ、ボードストリングは“理論的な強さの枠組みから得られるコンテキスト”がなければ意味を成しません。このコンテキストを活用することで、同程度のコスト/実現性を持つ構成が同じくらいパワーになっているか確認することができ、公正かつバランスの取れたゲームプレイを促進することが可能となります。この理論的な枠組みについて、ここでいくつかご紹介しましょう。

  • コスト1の★3ユニットが主軸のボードは、コスト4の★2ユニットが主軸のボードよりも弱い
  • コスト2の★3ユニットが主軸のボードは、コスト4の★2ユニットが主軸のボードと同程度の強さである
  • コスト3の★3ユニットが主軸のボードは、コスト4の★2ユニットが主軸のボードよりも強い

ボードストリング、紙上の枠組み、そしてシミュレーションは、私たちが主にPBE前の段階で用いる、極一部のツールにしか役立ちません。セットがPBEで実装されると、より優れた知識の宝庫…豊富なゲームデータを活用可能になります。

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PBEからは、情報に基づいた決定を行うのに必要な大量のデータを得ることができます。PBE期間中、そしてリリース後の各パッチにおいて必要な変更を提言するため、自分たちでゲームプレイ(たくさんプレイします)とシミュレーションを行い、ストーリーのテスト/提供が行えるようデータの入念な調査を実施します。

また、特定のユニット/特性を発動させた場合に、獲得した/失ったLPの差異を計測するLP Deltaのような要素だけでなく、ラウンドの勝率や、日々のメタ動向といった要素にも注目しています。こうしたデータ主導のアプローチに、ゲームの複雑性に対するプレイヤー、プロ、アナリストとしての深い理解を組み合わせることで、データに基づく効果的な調整を各パッチで行えるようになるのです。


GATのこれまでとこれから

GATの功績を振り返るとともに、これまでのセットにおける私たちの成長や変化を細かく見てみると、なかなか興味深い発見があります。チーム結成当初(「モンスターアタック!」の期間中)、私たちは効果的なフィードバックの提供や、シームレスなフィードバックサイクルの確立に関連した課題に直面していました。私たちがTFTでの初仕事を始めた頃、“ジャングリング”しているメンバーが3人いました。これはライアット社内で使われている用語で、他のチームがどう活動し、何を行っているのか理解するため、一時的にチームを移動することを指します。1シーズンの研修期間だと思ってください。当時、私たちはフィードバックの最適な提供方法、フィードバックの頻度、そしてコンテンツそのものすら知らずに、非常に表面的なレベルでシミュレーションやデザインフィードバックを行っていました。メンバーそれぞれには専門知識があるものの、どういったフィードバックがデザイナーにとって有用なのか、チームとしてはちゃんと理解できていなかったのです。

私たちは徐々にTFTの開発サイクルのペースに順応していきました──それはもう、とんでもなく速いペースで。あるデザイナーの言葉を借りるなら、「ビデオゲームの開発が乗客(メンバー)を乗せて駅を出発し、少しずつスピードを上げていく電車だとすれば、TFTは最高速度で駅を強行通過し、光の速さと私たち視認能力を突破して、3つの次元へと分かれた電車」だそうです。では、その電車に飛び乗ってみたとしましょう。線路には平らではない部分が必ずあります。ですが、プロセスの改善意識を強く持つことで、GATはゲームデザインチームにフィードバックと分析結果を提供するペースを、すぐに加速させました。

GATがセットデザインの微調整に携わったのは、「ルーンテラ リフォージ」が初めてでした。私たちはこれまでよりも深く開発に関わり、多種多様な構成と勝利への道筋が存在する、よりバランスの取れたセットをリリースしたいと考えていました。自分たちが行った仕事──すべての新オーグメントの分析、そして先ほど軽く触れた微調整のシミュレーションプロセスについては、誇らしく思っています。私たちはPBEのリリース前日まで調整を手伝うため、毎日シミュレーションを行い、隔週でデザイナーに報告書を送りました。そして、大部分は上手くいきました。「ルーンテラ リフォージ」はパッチ13.13に先駆けて、週半ばでのアップデート(Bパッチと呼ばれることもあります)をリリースする必要もなく、私がこの記事を書いている時点で(パッチ13.12の終わり頃)、多数の構成が成功を収めているようです。ただ、パッチ13.12のメタが完璧だったわけではなく、「ジークの使者」といった問題はありました。とはいえ、セットのリリース期間中は不確定要素が数多くあり、過去のセットのリリース(「ドラゴンランド」の龍術師ヌヌや、「レコニング」のヴェインのリロールなど)と比較すると、「ルーンテラ リフォージ」のリリースは成功だったと思います。

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私たちが成功を収めた分野だけでなく、改善の余地がある分野についても言及しておいた方が良いでしょう。ご存知の方もいるであろう、とあるバランスデザイナーはこう言いました──TFTにおいてバランスとは過程であり、最終地点ではない。これはMortの言葉を一部修正して引用したものですが、TFTにおけるこれまでのバランスの取り方と、GATが関わっている現在のバランスの取り方について考えると、非常に洞察に富んでいます。GATが関わる以前、バランス調整のすべては、データとコミュニティーの意見(ええ、これが決定に影響します)、そして私たち自身のプレイ体験に基づいて行われていました。ですから、TFTにおける各パッチのバランス調整は、新しい構成を発見してメタを定義し続けるプレイヤーとの、ある種の共同作業であり、対話でもあるわけです。GATがいることで、こうした対話をリリース前から始めることが可能になります。これまで通り、セットのリリース時にも対話は行いますが、大事なのはより良い状態でメタをスタートできる点です。「ルーンテラ リフォージ」では、より望ましい状態からメタをスタートできましたが、それで終わりではありません。バランスの問題を事前に予測する能力をかつてないほど向上させるだけでなく、“ペーシング”についても改善したいと考えています。

PBEでの最初のリリース時点で、「ルーンテラ リフォージ」のペーシングは非常に速いものでした(TFTでは、試合が進むにつれて盤面が強化される速度のことをペーシングと呼んでいます)。このセットでは、新メカニクスである「地域ポータル」と「レジェンド」が同時に追加されました。どちらもゴールドとXPを増加させる要素を備えていたため、インフレが起きるであろうことは私たちも薄々気づいていました。これに100以上の新オーグメントが実装されたことも合わさって、ゴールドを獲得したり、素早くレベルアップしたりする方法が多数生まれ、試合のペーシングは大きく加速しました。シミュレーションは、特定の盤面におけるボードとユニットの強さを捉える際には力を発揮しますが、試合のペーシングを捉えることにかけては、プレイテストに軍配が上がります。そこで、シミュレーションでは見えてこないTFTの側面を把握するため、PBEでのリリースが近づいたら、さらなるプレイテストを取り入れるつもりです。そして実のところ、すでに実施しています

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現在、チームは10番目のセットに取り組んでおり、このセットのプレイテストを3ヶ月近く行っています。リリースのかなり前からセットのプレイテストを行えるのは、今回が初めてのことであり、すでにセット全体に大きく貢献できています。もちろん、これは良いことです。なぜなら、TFTにはセットごとに相当数の不確定要素が追加されており、このセットも例外ではないからです。現在私たちは、10番目のTFTセットに登場する新たな特性、ユニット、メカニクスに慣れるとともに、セットデザインリードのMatthew Wittrockと協力して、各ユニット、特性、メカニクスがデザイン目標を達成できるよう、そして上でお話ししたデザインの検証要素を確実に満たせるよう取り組んでいます。

GATが丸々一つの(ライブの)新セットに全力を投じることができるのは、10番目のセットが初めてです。「ルーンテラ リフォージ」においては、まだかなりの時間を「モンスターアタック!」のミッドセットである「グリッチド アウト!」に割いていました。加えて、出来る範囲でライブチームのアシストもしていたのです。現在は3つのセットサイクルに切り替わり、各セットの開発スケジュールに余裕が出来たため、それぞれのセットにより多くの時間をかけることができるようになりました。MortとPeterがお届けする新スケジュールについての最新情報は、こちらからご確認いただけます。費やせる時間が増えたことで、私たちは全般的な整理作業やゲームプレイ検証以上のことが行えるようになりました。現在は、より多くのシナリオシミュレーションや、新オーグメントの組み合わせ検証を行うことが可能で、新たなセットメカニックの相互作用をテストすることもできています。TFTにとって、これはまったく新しい世界であり、「ルーンテラ リフォージ」のリリースで、それが目に見える形で実現できていれば幸いです。そして何より、セットに費やせる時間が増えたことでTFTに何をプラスできるのか、皆さんにお見せできる日を楽しみにしています!